薪ストーブの設置場所は玄関土間？

過去の記事と重複する部分があろうかと思いますが、重要な部分ですので改めて記述します。

先ず、薪ストーブは万能の暖房器具ではありません。よくある工務店での薪ストーブの謳い文句として、「全部屋暖房」などと言われます。一般的な日本型の間取りでは（個室が壁で密閉されている）、これは不可能です。

薪ストーブの暖房は主に輻射熱（遠赤外線）です。もちろん熱風の対流による効果はありますが、石油ファンヒーターやエアコン程、強力ではありません。輻射熱の遠赤外線の特徴としは光に似た特性があります。真っ暗な中、薪ストーブ設置場所に100Wの電球の点灯を想像してください。部屋は明るくなりますが、壁や床、天井に光が当たり、ものが視覚できます。しかし、途中の大気は視覚できません。薪ストーブも同じで途中の大気は遠赤外線では暖める事はできません。もちろん対流により大気は暖められますが、薪ストーブの暖房は、これがメインではありません。100Wの電球の光が当たった所の表面が暖められます。壁、建具ガラスや床、天井が直接、暖められ、そこに暮らす人々が暖かいと感じるのです。温風暖房機に比べて、室温が低くても快適なのは輻射熱だからなのです。

石油ファンヒーターでありがちな、ガラスの結露が殆ど発生しません。壁の結露もないので壁カビの心配が少なくなります。ただし、輻射熱の届かない部屋や隙間が多い古民家には、そこまでの効果は期待できないかも知れません。

薪ストーブの暖房は快適な床暖房と同じ輻射熱です。個室、洗面脱衣室、浴室、トイレは密閉空間ですので薪ストーブの輻射熱では暖房できないのです。襖１枚でも、その裏には遠赤外線はほとんど届きません。

また、ガンガンと燃やす薪ストーブではありませんので、（ガンガンと燃やせますが、もったいないので、そのような使い方は推奨していません）輻射熱で暖かいと感じるのは6m位です。光と同じ特性なので距離の2乗に反比例して遠赤外線が弱くなるからです。炎を鑑賞して十分な輻射熱を感じるのは3mの距離にあるソファーではないでしょう。お酒を嗜むとテレビ、インターネットでは味わえない至福の時を迎えることでしょう。

私が製作している薪ストーブはオーブンが付いていますので、キッチンストーブになります。寒い時期には調理器具として大変便利にご利用していただけます。大きな天板で、お湯を沸かす、保温、煮る、オーブンで肉、魚は煙が少なく焼き上がります。そんな意味からできれば、キッチンまたは家族のだんらんがあるリビングの設置が望ましいのです。よくある工務店の設置プラントとして、玄関土間があります。薪ストーブは使っていると床が灰や炭で汚れてきます。また、木製のフローリングへの低温発火の可能性もゼロではないし、薪の搬入、保管が容易なので一見合理的に思えます。しかし、日本人の靴を脱ぐ暮らしは玄関土間の設置では煩わしい部分があります。靴を脱ぎますから、普通、そこには段差があります。薪の投入は細めの薪をチョロチョロ焚く場合（実はこれが一番燃費が良い）は早ければ30分に1回の薪の投入が必要になります。その場合、いちいち履物で段差を降りて、薪を投入しなければならなくなります。また、オーブン付きの薪ストーブですので、火室のガラスが下に付いていまから、一段高いキッチン、リビングから炎のゆらぎが見えにくくなります。太古の歴史から人類に身についた、炎を見る癒やしや安らぎを得る機会が少なくなるのは残念でなりません。ぶっちゃけ、テレビを捨てて、そのテレビの位置が一番好ましい設置場所かも知れません（笑）

※火室が下にあるのは、効率の良い暖房と少ない薪で高温のオーブンを可能にしています。オーブンが下（火室が上）や横にある薪ストーブは少ない薪で高温にならないことが多いようです。